・LANイベントでのゲーム:ビデオゲームプレイの社会的文脈
Gaming at a LAN event: The social context of playing video games
JEROEN. JANSZ, LONNEKE. MARTENS, new media & society, 7(3), 333-355, 2005.
※(99+) Gaming at a LAN event: the social context of playing video games | Jeroen Jansz - Academia.edu
最近、オフラインで定期的に開催されるイベント組織が、どのように参加者のモチベーションを高め、成果に結びつけているのかに関心がある。
私自身、コンサルティングファームでProject Management Office(PMO)業務を比較的長く経験しており、プロジェクトのような短期間の組織(いわゆるTemporary Organization、TO:一時的組織)がベストパフォーマンスを発揮するために必要な要素が何であるか気になるからだ。
また、最近のブログでも紹介しているように、プロジェクトベースの業務は世界的に拡大傾向にあり、オープンタレント戦略の普及に伴い、雇用の流動化も進行中である。
このため、TOの一般化が着実に進みつつあり、今後の研究戦略としても注目したい領域である。
先行研究はまだ多くはなく、未開拓のフロンティアが多く残されていると考えている。
さて本論文では、オランダで開催されたLANイベントに参加したゲーマーの属性と参加動機を調査している。
LAN (Local Area Network) イベントとは、オンラインゲームの対面対戦をオフラインの大規模会場で実施するイベントで、参加者は自前のPCやゲーム機を持ち込み、FPS (First-Person Shooter) と呼ばれる本人視点のシューティングゲームをプレイする。
FPSはキャラクターを本人視点で操作し、サバイバルゲームのように打ち合ったり決闘したりして相手と勝負する類のゲームである。
なお、プレイヤーは「クラン」と呼ばれるチームを組み、対戦を行う。
論文では、対テロ部隊とテロ組織の戦いを体験できる「カウンターストライク」が紹介されている。
このゲームは2023年に「カウンターストライク2」が発売されており、根強い人気を持つようだ。
※LANイベントはLANパーティーとも呼ばれることもある(例として次の記事を参照:「C4 LAN」に初参加! 国内最大級のLANパーティーの楽しさはゲーマーとして「自由」であること - GAME Watch)。
ここから見て取れるように、この種のゲームは一見すると暴力的である。
私自身も幼少期には「ゲームに没頭しすぎると現実とゲームの区別が曖昧になる」と親から言われたものだが、メディアでも同様の指摘がされている。
論文では、暴力ゲームに対する批判として「暴力の偏在」や「社会的孤立」に言及があり、アメリカのコロンバイン高校での銃乱射事件 (2001)、ベルウェイ強盗事件 (2002)、ドイツでの銃乱射事件(2002)、オランダでの銃乱射事件(2004) など、暴力的ゲームとの因果関係を指摘している。
これら事件の加害者は社会的に孤立した青年であり、暴力的なゲームを現実に実行しようとしたと主張されている。
また、ある研究は暴力的ゲームと攻撃性の正の相関を示しており、社会的孤立のリスクについても、特に思春期のゲームオタクが長時間ゲームを行うことで友人や家族との社会的関係が希薄になり、ゲーム依存に陥る可能性があるとの指摘がある。
このようなステレオタイプは我が国を含めて一般的なようだ。
では、実際のところはどうだったのだろうか。調査結果を見ていこう。
まずLANイベント参加者の属性を確認する。
参加者は11~35歳で、平均年齢は19.55歳だった。
未成年が多く、当然独身が多い。また、圧倒的に男性が占めていた。
ヘビーゲーマーは1日あたり平均2.6時間ゲームをしており、好むジャンルはFPSが中心だった。
ただし、いわゆる「オタク」ゲーマーのステレオタイプとは異なり、彼らの多くがLANイベントにおける社会的交流を目的としていることが明らかになった。
参加者からは「お互いの顔を見て、知り合うこと」が主な参加動機とされており、ゲームそのものの対戦目的を超えた社交の場であることが窺える。
また、競争(対戦)に動機づけられた参加者も多かったが、主な動機は①社会的交流、②興味(情報収集)に次ぐ3番目に過ぎなかった。
この結果はFPS人気を考慮すると意外に思えるだろう。
ただし、①LANイベントへの参加頻度が高い人、②ヘビーゲーマー、③オンラインでのヘビーゲーマーという順で、競争的動機が強まる傾向が見られた。論文では、イベント参加が日常化するにつれて、ゲーマーとしての「ヒエラルキー」を極めたいという競争意識が強まるのではないかと考察している。
さらに、参加者のほとんどが男性(96.5%)であることにも触れている。
参加者の多くは「クラン」と呼ばれるチームに所属しており、LANゲームの社会性はサッカーなどに通じる点があるとされる。
すなわち、親密な会話ではなく、活動そのものを共有することで絆が育まれるため、男性同士のつながりが生まれやすいというわけだ。
このため女性が参加しにくい環境になっており、加えてFPSなどの暴力的なゲームを女性が好まないことも一因と考察されている。
このような分析から、ゲームプレイが一般的なイメージ以上に社会的な活動であることが示されている。
この論文は2005年のものであるが、eスポーツの隆盛など、今日ではゲームコミュニティがさらに進化していることが予想される。
ゲームに対するステレオタイプが変わりつつある現状も興味深い。
今回の研究から、ゲーマーの社会性の高さが示されたが、ゲームに関するポジティブな側面は他にもある。
例えば、家庭内でゲームを通じて親子(特に父親と息子)の新たな絆が生まれるという研究や、オンラインゲームが仲間集団の形成、新たな社会的関係を築くきっかけとなるという研究もある。
確かに暴力的なゲームイメージが強いため、ポジティブなイメージを持ちづらいのが実情だと思うが、ゲーマーのイメージはステレオタイプが独り歩きしてしまった幻影なのかもしれない。
以上が論文レビューの要点だが、組織論の観点からも示唆に富む。
このような一時的なイベントでも、人は社会的交流を求めて参加することがわかった点は興味深い。
また、競争的動機は「他者への勝利」「スキル向上」「自己顕示」といった要素で構成され、イベント参加頻度やプレイスタイルに応じて社会的動機よりも競争的動機が高まることも明らかになった。
つまり、このイベントが個人やクランのパフォーマンス向上の場となっていることを示している。
競争的動機が高まる理由は不明だが、このような一時的なイベントでも一定の条件が揃えば組織のパフォーマンス向上に寄与する場になりうるのかもしれない。
本論文の分析対象はあくまでLANイベントだが、現実の組織でもTemporary Organization(TO)が一般化しつつある中、このような場でのパフォーマンス向上要因が明らかになれば、企業運営においても有益な示唆を得られるだろう。
以上
※校正には一部ChatGTPを利用しています