とある経営系大学教員の頭の整理ブログ

経営系大学教員のTIPs・講義系の記事を整理するブログです。ただし、それにこだわらず色々なものの整理に利用しようと考えています。

【レビュー】オフラインイベントに参加するゲーマーの実態を探る

・LANイベントでのゲーム:ビデオゲームプレイの社会的文脈
 Gaming at a LAN event: The social context of playing video games
   JEROEN. JANSZ, LONNEKE. MARTENS, new media & society, 7(3), 333-355, 2005.
 ※(99+) Gaming at a LAN event: the social context of playing video games | Jeroen Jansz - Academia.edu


最近、オフラインで定期的に開催されるイベント組織が、どのように参加者のモチベーションを高め、成果に結びつけているのかに関心がある。
私自身、コンサルティングファームでProject Management Office(PMO)業務を比較的長く経験しており、プロジェクトのような短期間の組織(いわゆるTemporary Organization、TO:一時的組織)がベストパフォーマンスを発揮するために必要な要素が何であるか気になるからだ。

また、最近のブログでも紹介しているように、プロジェクトベースの業務は世界的に拡大傾向にあり、オープンタレント戦略の普及に伴い、雇用の流動化も進行中である。
このため、TOの一般化が着実に進みつつあり、今後の研究戦略としても注目したい領域である。
先行研究はまだ多くはなく、未開拓のフロンティアが多く残されていると考えている。

さて本論文では、オランダで開催されたLANイベントに参加したゲーマーの属性と参加動機を調査している。
LAN (Local Area Network) イベントとは、オンラインゲームの対面対戦をオフラインの大規模会場で実施するイベントで、参加者は自前のPCやゲーム機を持ち込み、FPS (First-Person Shooter) と呼ばれる本人視点のシューティングゲームをプレイする。
FPSはキャラクターを本人視点で操作し、サバイバルゲームのように打ち合ったり決闘したりして相手と勝負する類のゲームである。
なお、プレイヤーは「クラン」と呼ばれるチームを組み、対戦を行う。
論文では、対テロ部隊とテロ組織の戦いを体験できる「カウンターストライク」が紹介されている。
このゲームは2023年に「カウンターストライク2」が発売されており、根強い人気を持つようだ。
※LANイベントはLANパーティーとも呼ばれることもある(例として次の記事を参照:「C4 LAN」に初参加! 国内最大級のLANパーティーの楽しさはゲーマーとして「自由」であること - GAME Watch)。

ここから見て取れるように、この種のゲームは一見すると暴力的である。
私自身も幼少期には「ゲームに没頭しすぎると現実とゲームの区別が曖昧になる」と親から言われたものだが、メディアでも同様の指摘がされている。
論文では、暴力ゲームに対する批判として「暴力の偏在」や「社会的孤立」に言及があり、アメリカのコロンバイン高校での銃乱射事件 (2001)、ベルウェイ強盗事件 (2002)、ドイツでの銃乱射事件(2002)、オランダでの銃乱射事件(2004) など、暴力的ゲームとの因果関係を指摘している。
これら事件の加害者は社会的に孤立した青年であり、暴力的なゲームを現実に実行しようとしたと主張されている。
また、ある研究は暴力的ゲームと攻撃性の正の相関を示しており、社会的孤立のリスクについても、特に思春期のゲームオタクが長時間ゲームを行うことで友人や家族との社会的関係が希薄になり、ゲーム依存に陥る可能性があるとの指摘がある。
このようなステレオタイプは我が国を含めて一般的なようだ。

では、実際のところはどうだったのだろうか。調査結果を見ていこう。

まずLANイベント参加者の属性を確認する。
参加者は11~35歳で、平均年齢は19.55歳だった。
未成年が多く、当然独身が多い。また、圧倒的に男性が占めていた。
ヘビーゲーマーは1日あたり平均2.6時間ゲームをしており、好むジャンルはFPSが中心だった。
ただし、いわゆる「オタク」ゲーマーのステレオタイプとは異なり、彼らの多くがLANイベントにおける社会的交流を目的としていることが明らかになった。
参加者からは「お互いの顔を見て、知り合うこと」が主な参加動機とされており、ゲームそのものの対戦目的を超えた社交の場であることが窺える。

また、競争(対戦)に動機づけられた参加者も多かったが、主な動機は①社会的交流、②興味(情報収集)に次ぐ3番目に過ぎなかった。
この結果はFPS人気を考慮すると意外に思えるだろう。

ただし、①LANイベントへの参加頻度が高い人、②ヘビーゲーマー、③オンラインでのヘビーゲーマーという順で、競争的動機が強まる傾向が見られた。論文では、イベント参加が日常化するにつれて、ゲーマーとしての「ヒエラルキー」を極めたいという競争意識が強まるのではないかと考察している。

さらに、参加者のほとんどが男性(96.5%)であることにも触れている。
参加者の多くは「クラン」と呼ばれるチームに所属しており、LANゲームの社会性はサッカーなどに通じる点があるとされる。
すなわち、親密な会話ではなく、活動そのものを共有することで絆が育まれるため、男性同士のつながりが生まれやすいというわけだ。
このため女性が参加しにくい環境になっており、加えてFPSなどの暴力的なゲームを女性が好まないことも一因と考察されている。

このような分析から、ゲームプレイが一般的なイメージ以上に社会的な活動であることが示されている。
この論文は2005年のものであるが、eスポーツの隆盛など、今日ではゲームコミュニティがさらに進化していることが予想される。
ゲームに対するステレオタイプが変わりつつある現状も興味深い。

今回の研究から、ゲーマーの社会性の高さが示されたが、ゲームに関するポジティブな側面は他にもある。
例えば、家庭内でゲームを通じて親子(特に父親と息子)の新たな絆が生まれるという研究や、オンラインゲームが仲間集団の形成、新たな社会的関係を築くきっかけとなるという研究もある。
確かに暴力的なゲームイメージが強いため、ポジティブなイメージを持ちづらいのが実情だと思うが、ゲーマーのイメージはステレオタイプが独り歩きしてしまった幻影なのかもしれない。

以上が論文レビューの要点だが、組織論の観点からも示唆に富む。
このような一時的なイベントでも、人は社会的交流を求めて参加することがわかった点は興味深い。
また、競争的動機は「他者への勝利」「スキル向上」「自己顕示」といった要素で構成され、イベント参加頻度やプレイスタイルに応じて社会的動機よりも競争的動機が高まることも明らかになった。
つまり、このイベントが個人やクランのパフォーマンス向上の場となっていることを示している。

競争的動機が高まる理由は不明だが、このような一時的なイベントでも一定の条件が揃えば組織のパフォーマンス向上に寄与する場になりうるのかもしれない。
本論文の分析対象はあくまでLANイベントだが、現実の組織でもTemporary Organization(TO)が一般化しつつある中、このような場でのパフォーマンス向上要因が明らかになれば、企業運営においても有益な示唆を得られるだろう。

以上
※校正には一部ChatGTPを利用しています

【レビュー】お気に入りの部下を持つことの弊害

・上司による無意識のえこひいきは想定外の影響をもたらす(HBR 2024/11)
 Stop Playing Favorites
   Ginka. Toegel, Jean-Louis. Barsoux, HBR, 2024/11.
 ※英文はこちら(Stop Playing Favorites)

 

会社で働いていると、上司に「お気に入りの部下」がいることがよくわかる。
公にはされていなくとも、「この上司はこの人を気に入っているな」と感じる場面に、職場で遭遇したことがあるのではないだろうか。
部下は、自分が「上司のお気に入りの内集団」にいるか、それとも「お気に入りではない外集団」にいるかを意外とすぐに察し、懇親会(飲み会)でもよく話題に上る。
しかし、単なる飲み会での話題にとどまらず、自分が上司の内集団か外集団かが仕事のモチベーションに直結するため、マネジメントにおいて大きな課題となっている。


「外集団」にいることがわかると、エンゲージメントや職務満足度、コミットメントが低下するとの研究結果もある。
部下たちは、職場の中で能力や仕事への姿勢、地位を同僚と比較し、リーダーの言葉遣いや誠実さ、ボディランゲージ、精神的サポートから敏感に自分の評価を察知しているという。
私も職場で、ちょっとした言葉や態度から違和感を覚えた経験があり、実感としてよくわかるところだ。

興味深いのは、上司が自分への態度の変化には微細な差でも気づけるのに、いざ自分が部下をどう扱っているかには鈍感になってしまう点である。
内集団からのフィードバックが良いため、外集団が自分に対してどう感じているかに気づきにくい。
結果的に、上司は自分の態度が変わっていないと思っていても、一部の部下から不満を抱かれることがある。
このように、自分事であれば微細な変化に「感ずく」点のは、人間の生存本能に基づいた自己防衛にも関連しているのだろう。

ある調査(対象12万人)によると、59%の従業員が「ディスエンゲージメント状態(いわゆる静かな退職者)」であると回答し、さらに18%は「職務に集中するつもりはない(不満を表に出す退職者)」と回答している。
社会的情報処理モデル(SIPモデル)では、不満を表に出す社員がいると、やる気のある社員のモチベーションも下がることが知られており、こうした騒がしい退職者の存在は職場において早急な対策が必要となる。
もちろん、従業員のエンゲージメントに影響を与える要因は上司だけではないが、上司と部下の関係性が重要であることは間違いない。

ではどうすれば対立を防ぐことができるのだろうか。
それは当たり前ながら部下と積極的にコミュニケーションを取ることが重要なのである。
記事では、毎週末に以下の問いかけを自分自身にすることを推奨している。

【問いかけ】
 1.あなたはその部下との親交を深めようとしましたか
 2.あなたがその部下の能力を認めていることを示しましたか
 3.あなたはその部下の成長を支援しましたか

これらはシンプルな問いかけだが、週末の業務終了前に少しの時間を割いて一人ひとりの部下を思い浮かべながら取り組んでみるとよい。
この習慣があるチームとないチームでは、部下が上司に対して抱く信頼感に大きな差が出てくるだろう。

リーダーや管理職はマルチタスクが常態化しているため、「また仕事が増えるのか」と思うかもしれないが、少なくとも内集団の部下には行っておいたほうがリスクヘッジにはなる
このような記事を読むたび、上司の役割はますます重くなっていると感じるが、こうした知識が頭に入っているかどうかで、チームマネジメントの成果は大きく異なるはずだ。
部下とのラポール(心の通い合う関係)を築くには、趣味や子どもといった共通点を見つけて共有することが有効なようだ。
相手との間にラポール(心の通い合う関係)を築くためには子どもや趣味などの共通点を見つけて共有するのが有効なようだ。
相似点は好意を生む力強い原動力となり、それがベースに部下をエンカレッジすることで部下たちに有能感を持たせることができる。
確かに共感が持てる点で、やはり上司その人と自分自身の共通の趣味や悩みなどがあると普段は接しにくいと思っている人物でも趣味や話題が合えば急に親近感を感じることはある。
私も最近、学生から「学生は教員のリアルな素の顔が見えると教員に対して親近感を抱く」と聞いたが、こうした小さなことが職場の信頼感を育み、業績向上につながるのは興味深い。

さらに記事では、関係がこじれた上司と部下の修復方法についても触れている。
当たり前に思えるが、次の3点が重要だという。

1. 対話の準備をする
 ⇒部下との対話前にロールプレイングでシミュレーションして臨む。
2. 関与する
 ⇒部下と対話を行う。その際、一方的に話すのではなく自分自身の責任を明確にして建設的な話し合いに努める。
3. 計画を策定する
 ⇒再び組織の共通目標に向かって協力し合える関係になるための計画を立てる。この際、それぞれに譲れない点を明確化することが重要となる。

一度関係が壊れると修復は難しく、早め早めの対応が不可欠だろう。
日経新聞の記事でも、ジョブ型雇用の問題が取り上げられているが、ジョブ型雇用は「ジョブ」に基づくため、その「ジョブ」がなくなれば降格されやすくなる。
この点が労使関係に影響を与えることが懸念されている。
やはり上司⇔部下との信頼関係が醸成されていないと、荒廃した職場になるリスクが高く、業績影響も必至だろう。
ジョブ型降格、悩む企業 富士通やパナソニックコネクトに工夫も - 日本経済新聞

また先日も以下でレビューしたように世界の労働市場における雇用の流動性は徐々に高まっており、不可逆なようにも見える。
【レビュー】外部の専門人材を組織に融合させる方法:社内外の混成チームをいかにマネジメントするか - TIPs・講義の整理ブログ

このような状況を勘案すると、ますます上司⇔部下の良好な関係構築は重要となる。
レビュー記事はさも当然なことを主張しているようにも思えるが、実務の場で実践できている人はほとんどいないのだろう。
もはや部下のマネジメントは軽視できない。

以上
※文章校正の一部にChatGTPを利用しています。

【レビュー】上手に自慢話をする方法

・上手に自慢話をする方法(HBR 2024/11)
 Dual-Promotion: Brangging better by Promoting Peers
    Eric M. VanEpps, Einav Hart, and Maurice E. Schweitzer, Journal of Personality and Social Psychology, 2024.
 * ただし、実際に参照したのは以下の査読前論文
 Dual-Promotion: Brangging better by Promoting Peers
    Eric M. VanEpps, Einav Hart, and Maurice E. Schweitzer, George Mason University School of Business Research Paper Forthcoming, 2022/6.

 

本日10月27日は衆議院選挙の投票日である。すでに夕刻であり、多くの有権者、特に学生(ちゃんと行きましたか?)なども投票を済ませ、20時からの開票速報を楽しみにしている頃だろう。

今回の論文は、「上手に自慢話をする方法」という興味深い見出しでHBRに掲載されており、ちょうど選挙の時期とも重なったため、原著も含めて読んでみることにした。個人的にドラえもんのファンであるが、あの世界ではスネ夫の嫌味たっぷりな自慢話がきっかけでストーリーが展開されることが多い。もしスネ夫が自分の評価を上げるような「上手な自慢話」をできたら、どんな展開になっていただろうか。

実はこのような悩みは広く一般的であり、最近では「マウントを取る/取られる」といった表現もよく耳にする。本人の意図に関わらず、「あいつ、マウント取ってるな」と裏で思われることもあるだろう。好印象を与える「上手な自慢話」のスキルは、社会生活で重要なものと言える。もちろん、政治家にとっても同様だ。

では、どうすれば「上手な自慢話」ができるのか。論文によれば、「デュアル・プロモーション(Dual-Promotion)」が重要であるとされる。この手法は以下の二つを含むプロモーション戦略として定義されている。

【Dual-Promotion】
 ① 「セルフ・プロモーション(Self-Promotion)」:自分自身の成果を聴衆に伝える、つまり自分の自慢話。 
 ② 「アザー・プロモーション(Other-Promotion)」:他人の成果を聴衆に伝える、つまり他人の自慢話。

従来のプロモーションに関する研究では、Self-Promotionによって自分の能力をアピールすると、温かさや好感度が損なわれたり、逆に温かさを強調すると能力が低いと見られてしまう「セルフプロモーションのジレンマ」が指摘されてきた。しかし、「デュアル・プロモーション」の手法は、このジレンマを克服する新たなアプローチとして有効である可能性がある。

著者らは4つの実験を行い、この手法の有効性を説いている。

・実験①
 米国の現役管理職経験者に、以下の2つの文章を読み比べてもらい、話し手の「有能さ」と「温かさ」を評価させた。その結果、どちらの文章でも「有能さ」の評価には差が見られなかったが、「Dual-Promotion」を用いた文章の方が「温かさ」や「印象」の評価が高いことがわかった。

  • 文章①
     このプロジェクトは、技術的な詳細が効率的であったため成功した。私のスキルセットはこのプロジェクトに完璧に適合していたので、財務分析、技術プロセス、バックエンド設計のすべてを担当した。私は自分のベストを自分で管理し、大きな成果につながった。
  • 文章②
     このプロジェクトはチームワークで成功した。私は、財務分析、技術プロセス、バックエンド設計のすべてに気を配った。アレックスは、彼がクライアントとのコミュニケーションをどのように扱ったかに、本当に感銘を受けた。私たちは二人とも、自分たちがベストを尽くし、大きな成果をもたらした

・実験②
 聞き手の前に話し手とその同僚がいる状況で、話し手と同僚が「Self-Promotion」または「Dual-Promotion」を行った場合に、聞き手が話し手をどう評価するかを検証した。その結果、同僚のプロモーションに関係なく、話し手が「Dual-Promotion」を行うと、評価が高くなることがわかった。
※4つのケース(お互いSelf-Promotion、話し手がSelf-Promotionで同僚がDual-Promotion、話し手がDual-Promotionで同僚がSelf-Promotion、両者がDual-Promotion)で実験が行われた。

・実験③
 実験②に「Other-Promotion」と「Neutral-Statement(自己・他者をプロモーションしない中立的な文)」を追加しても、Dual-Promotionを用いた方が話し手の評価が高くなることが確認された。

・実験④
 架空の政治家の年次報告書において、Dual-PromotionとSelf-Promotionの文章を作成し、実験参加者に評価させたところ、Dual-Promotionを用いた政治家の方が「温かみがあり、かつ能力も高い」と評価された。また、この評価は投票行動にも影響を及ぼす結果が得られた。

  • Self-Promotion文:私の努力のおかげで、地元の空港の滑走路の改修と改善はうまく成功した。私は、財務分析、物流プロセス、法的書類作成のすべてに気を配った。また、空港関係者とのコミュニケーションも扱った。私は自分のベストを自分で担当し、大きな成果につながった。
  • Dual-Promotion文:地方空港の滑走路の改修と改善は、私たちのチームワークのおかげで成功しました。私は財務分析、物流プロセス、法的書類作成のすべてを担当しました。ジョン・K は空港職員とのコミュニケーションの取り方に本当に感銘を受けました。私たちは 2 人とも得意分野を担当し、素晴らしい成果につながりました。

著者らはこれらの実験から、Dual-Promotionの有効性を検証し、自己の実績だけを主張することが逆効果になる場合があることを示している。他者の実績も称賛することで、結果的に自身の評価も向上することが結論づけられた。
彼らの今後の研究では、グループや階層に焦点を当て、聞き手よりも上位または下位のメンバーによる印象の与え方も分析対象としている。非常に興味深い展開が期待できる。

さて最近の政治家を見ていると、このようなDual-Promotionを意識している人はほとんどいないように見える。これにはプロモーション戦略を軽視しているようにしか思えない(メディアの影響もあるかもれないが)。
しかし、このようなある意味正直な政治家よりも、Dual-Promotion戦略を巧妙に使いこなす政治家にこそ、注意が必要なのかもしれない。

 

以上

【参考】
Dual-promotion: Bragging Better by Promoting Peers by Eric VanEpps, Einav Hart, Maurice E. Schweitzer :: SSRN
※文章の校正には一部ChatGTPを利用しています

【レビュー】宗教色と賃金格差の関係

・宗教色と賃金格差の関係(HBR 2022/2)
 The Hidden Cost of Prayer: Religiosity and the Gendor Wage Gap
    Traci Sitzmann and Elizabeth M. Campbell, Academy of Management Journal, 2021/10

 

最近、授業で官僚制に触れた際、改めてM.ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の影響力に驚かされた。ヴェーバーは、ヨーロッパ資本主義の成立と発展がプロテスタンティズムに根ざしていると説明している。
宗教が資本主義の発展に影響しているという点を初めて学んだときには目から鱗が落ちた。
宗教に忠実な行動が、世俗的な利益を追求する資本主義を生み出すという逆説的な説明は、今でも新鮮さを失わないだろう。
※ちなみに私はヴェーバーの専門家でも何でもない。
人間の行動は、その人が「当たり前」と思っている「常識」に大きく影響されていることが、やはり重要なのだろう。

そんなことを考えていたとき、ふと目に留まったのがこの宗教の影響を調査した論文だった。
この研究は、宗教の重要度が男女の賃金格差に与える影響を三つの視点から分析している。

  1. 国レベルでの影響
    パキスタンやフィリピンでは、宗教が重要だと答える人が95%以上おり、女性の収入が男性の46%にとどまっていた。一方、宗教が重要とする人が20%未満の北欧諸国では、女性の収入は男性の75%だった。
    ちなみに、日本の男女の賃金格差は内閣府調査(2021)によれば75%である。ただし、この調査では北欧諸国の賃金格差は95%とされており、異なる計算方法が使われている可能性がある。
    男女間賃金格差(我が国の現状) | 内閣府男女共同参画局

  2. 地域レベルでの影響
    次にアメリカに焦点を当て分析を行っている。州別に分析した結果、宗教色の強い5州では男女の賃金格差が26%で、宗教色の薄い5州では18%だった。また、賃金格差の解消にかかる時間は、宗教色が薄い州と比べて宗教色が強い州では3倍以上の時間がかかることが示された。
    ちなみにアメリカでは、キリスト教が主流でプロテスタントが4割、カトリックが2割を占めているが、もしかすると宗派によってはこの傾向が異なるのかもしれない。

  3. 宗教感による賃金格差を改善する方法
    最後に、賃金格差を減少させるための方法を実験で検証した結果、宗教色の強い社是が賃金格差を拡大させることが明らかになった。しかし、平等主義的な価値観がある場合、格差は是正されるという結果が得られている。

これらの結果から宗教的な価値観が、男女の格差を生み出す要因となりうることがわかる。宗教は古代から中世にかけて形成された価値観に基づいており、その教義が意図せずとも現在の社会にも影響を及ぼしているのだろう。宗教的な教義がベースとなることで、意図せずとも男女格差が生まれることには確かに説得力はある。

ここで企業を考えてみたい。企業文化では効率アップのために社員を企業色に染めることが推奨されてきたが、この研究からは、それに染まった社員があるとき意図せず足を引っ張ってしまうリスクが示唆される。
組織文化はこれまで重要とされているが、やはり過度に固定化されると、長期的には組織の崩壊を招く恐れがあるのだろう。
常に組織文化を「アップデート」することが重要だと改めて考える。

とはいえ、慣性の働く組織文化のアップデートは非常に難しく一朝一夕で可能なものではない。
しかし、この論文では、たとえ強固な文化があろうとも新たな価値観をインストールすることは可能だと主張している。研究によると、新たな価値観に関する明確で直接的なステートメントの読み上げが有効であることが示されているのだ。

ここで会社勤め時代をよくよく思い出してみると、企業でよく行われる朝の唱和などが、実は価値観の見直しの重要ツールとなるのかもしれない。
当時は「朝から面倒だな」なんて思ったりしていたが、確かにそのタイミング以外で社員が一同で同じステートメントを唱和することなんてない。
朝のわずか1分程度の時間が組織文化のアップデートにクリティカルな時間だと思えば、やってみる価値はあるのかもしれない。

・・・朝の唱和はすでに虫の息だったりするかもしれないが。

以上


※文章校正にChatGTPを一部利用しています。

科研費一考 ~研究活動スタート支援④~

さて、4回目です。

今回は具体的に章の中身を見ていきたいと思います。
具体的に研究活動スタート支援の記載しなければならない項目は以下のとおりです。

  1. 研究目的、研究方法など:3ページ以内
    1) 本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」
    2) 本研究の目的及び学術的独自性と創造性
    3) 本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ
    4) 本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか
    5) 本研究の目的を達成するための準備状況
  2. 応募者の研究遂行能力及び研究環境:2ページ以内
    1) これまでの研究活動
    2) 研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)
  3. 人権の保護及び法令等の遵守への対応:1ページ以内

大きく3章に分かれていますが、一番最後の「人権の保護及び法令等の遵守への対応」はあまり重要ではないと考えるので、1章「研究目的、研究方法など」、2章「応募者の研究遂行能力及び研究環境」にフォーカスします。

ただし、ここで一点断っておきたいことがあるのです。
研究活動スタート支援を採択いただいた訳ですが、当然来年度からの科研費も狙うために基盤C調書も作るわけです。
基盤Cの「問い」も研スタの延長であったため、当然研スタ調書ベースで作成しました。
ちょうど作り上げたところで、学内で科研費採択実績が豊富な先生からレビューを受けるチャンスがあることを知り、「これは良い機会」と早速利用してみたのですが、記載を根本から見直すことにしました
指摘は「確かにごもっとも」と目から鱗かつ大変ありがたいもので、コメントいただいた先生には本当に感謝しています。

しかしながら、そもそも研スタも採択いただいたので、よく聞く話で何が正解なのかはわからないなというのが今のところの所感です(もちろんしっかり書くのは当たり前)。
この点をご理解いただけますと幸いです。
もし基盤Cが無事に採択となれば、今回との差異をどこかに記しておきたいと思います。

では、今回は1章の以下の3節から見ていきたいと思います。

1) 本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」
2) 本研究の目的及び学術的独自性と創造性
3) 本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ

なぜこの3つなのかと言うと個人的にはここまでが1フレーズ、一息で吹き切る部分はないかと考えたからです。

ある意味そのままではありますが、まず背景(起)から「問い」を立て、何を明らかにするのかその目的を明らかにする(承)。
そして、その目的から独創性を積極的にアピールする(転)。
そして、立てた「問い」の周辺動向を説明して、この「問い」が他研究と比べてどのような新規性・成果・パワーがあるのか説得する(結)・・・。

間違いなくこの部分が調書の核心だと思います。
なので、この流れで読み手を「うんうん」とうなずかせ、いかに自分の領域に没入してもらうことができるかが勝負の分かれ目なのではないでしょうか。
個人的には1節と2節は特につながりを意識すべき点と思います。
ここは先に挙げたとおり、「問い」から目的を明らかにする核心中の核心部分です。
問いを立てる1節、と目的を明らかにし独創性をアピールする2節。
ここが起承転結の起から転までを占める箇所だと思うので、スムースに流れるようにロジカルに記載するのが味噌かなと思います。
特に1章は全3ページと短いため、ここまでの約1ページで審査員に計画の80%をわかってもらうイメージだと思います。

では、1節「本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」」です。
繰り返しですが、ここは主に「起承」にあたる部分と考えます。
まずは学術的背景(起)をしっかりと記載しました。
僕の研究は個人の選好が組織の意思決定に及ぼす影響を探求するものですが、「なぜ組織が不合理な意思決定に陥ってしまうのか」との割と一般的な問いかけからスタートし、現在の組織研究のベースとなっている古典的な概念から現在の意思決定研究の課題に言及していきます。
そのうえで現代では個人のアノマリを説明し発展している行動経済学の話につなげ、今回の研究のキーとなる時間選好を比較的詳細に解説、そして現代の理論でも組織の意思決定研究にはやはり課題があることを指摘しました。
このように私は「古典的な研究」から「現代の研究」と時系列的な流れを意識的に作り、それでもやはり不十分な点があるので、その観点からMajorResearchQuestion(問い:MRQ)を導出したんだ(承)、と整理しました。

気を付けたのはMRQに至るまでのロジカルなつながりと文章の歯切れの良さでした。
ただし、「承」の部分は2節「本研究の目的」に一部掛かるイメージです。
やはり「問い」と問いの研究を通じた「この研究での目的」は一セットと捉えておくべきで、スルッと流れるよう密接なつながりを極力意識しました。

続いて、2節「本研究の目的及び学術的独自性と創造性」です。
個人的にはここが調書の核心部分で一番面白いところ、恐らく審査員も一番ドキドキ読みたい部分ではないかなと思います。

ここではまず1節最後に記載したMRQの研究を通じた「目的」と「目的を通じて主張したいこと」を記載しました。
前述のとおり1節最初からここまでが「起承」の部分と意識しています。

そしてこの次が一番面白い「転」であり、調書の中で最もワクワク・ドキドキさせないといけない部分です。
~この領域はこれまではこうだったけど、この研究を行えば何とこんなことがわかってしまうんです、この研究の面白い点はここなんですよ~と。
僕はここで伝家の宝刀とばかりにドンピシャ直系の先行研究を挙げつつ、この先行研究でも不十分な点があり、僕の研究で新しい観点を持ち込むことができるとしたうえで、これでもかと言わんばかりに独自性と創造性の大風呂敷を広げました。

・・・かなり誇張している感はありますが、やはり先行研究をきちんとレビューしたうえでそれでも足りてない箇所、新たな道を開けそうな可能性をある程度の説得性をもって主張できたかなと思います。
以下のように「起」から時系列ベースにコツコツと石垣を積み上げていって、最後に天守閣を立てましたという感じですね。

【イメージ】
 ①「古典的な研究レビュー」⇒②「比較的近い領域の研究レビュー」⇒③「直系の研究レビュー」

ここまで来れば最後に3節「本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」です。
僕は「結」の位置づけで考えていました。
なぜこの研究を思い付いたのか、今までどのように関連研究を進めていたのか、研究を進めるにあたっての研究協力者がいるのかということをまとめのように整理し、最後に関連研究にどのようなものがあるか、そしてこの研究がどのような価値をそこに生み出せるのかを記載しました。
映画で言うところのエンドクレジットを流すようなイメージですかね。

この調書を仕上げるにあたって有識者の方からアドバイスもいただきつつ、1人で悩みつつ何とか書き上げました。
前職はコンサルタントをやっていたので、ドキュメンテーションには多少自信はあったため、何とかやり切れたのかなとも思います。

・・・ここまで解説してきましたが、前述のとおり科研費の百戦錬磨の先生からはアドバイスを多数いただいたので、これが正しいのかはわかりません。
「One of Many」には違いありませんから、こんな人もいたんだなくらいで参考にいただければありがたいです。

とりあえず、今回は以上です。また気が向いた時に更新します。

以上

【レビュー】外部の専門人材を組織に融合させる方法:社内外の混成チームをいかにマネジメントするか

・外部の専門人材を組織に融合させる方法:社内外の混成チームをいかにマネジメントするか
ガーソン,グラットン,訳:池村千秋,HBR(2024/9)

 

人材不足が叫ばれるのは日本も世界も同じようだ。
諸々感じることがあったのでレビューと言うより徒然とした感想を記載しておく。

今までの経験からプロジェクト業務では、いわゆるプロパーの自社社員以外がチームに入って一緒に仕事をしていることが多かった。
この点はプロジェクトワークを経験した方なら全くそのとおりと思えるところだろう。
僕の立ち位置はPMOと言ったクライアント支援の立場が多かったので、プロジェクトチームにおいて混成チームをどのようにマネジメントするかは日々頭を悩ませる課題であった。

しかし、この論文ももちろんだが、掲載されているHBR24/9号の特集として、もはや人材不足は深刻でプロジェクト業務以外の通常業務にまでプロパー以外の外部社員、つまり業務委託やフリーランスが進出している現実があるとのことだ。
僕の経験する限りでは、派遣社員などが事務サポートとしてチーム内にいることは至って普通なのだが、どうやら欧米では主要業務そのものもプロパー以外の外部社員が受け持つ時代に変化しているらしい。
日本ではこのようなオープンタレント的な戦略はまだ主流ではないとは言え、欧米ではすでに主流で日本も次第に変化していくのだろう。
※今号のHBRは若干フリーランス向けリクルートサイトの広告めいた雰囲気を感じた笑

さて、この論文ではプロパーと外部社員の混成型労働力の課題を挙げ、対外部社員・対プロパーに向けた新たなマネジメント手法を説いている。

【対外部社員:フリーランス
そもそもプロパーとフリーランスマインドセットは異なっており、フリーランスは会社に対して新たな経験や学びを求めている一方で、会社はフリーランスに対してプロジェクトの成果、最先端の専門知識、自社の価値観の遵守などを求めていると説明する。

会社は外部の高度スキルを求めて、プロパーより高い給料を示してフリーランスを雇い入れるわけだから違和感はない。
しかしながら、自社の価値観の遵守はなかなか難しい点があると思われる。
この点、研修で徹底的に学ばせることや、フリーランス選考時の採用時からアンマッチしないように気を使うなどの事例を挙げているが、それでもフリーランスは有期雇用のような形になるわけで、価値観の理解は簡単ではないだろう。
僕も色々なクライアントと仕事をした経験があるが、それぞれ文化は独特のものがあり、慣れるのにはかなり時間がかかっていた。
むろん、表層的に理解した体ではいるのだが、プロパーとは文化の成熟具合は全く違ったというのが肌感だ。

フリーランスの採用はいわば安定していた会社の中に不安定を取り込むようなものなので、特に長期の契約であるほど慎重になる必要があると思われる。
特に価値観は軽視されやすいケースが多かったと記憶しているが、価値観による周囲との摩擦や軋轢は意外と発生しやすい
将来的に大きなインパクトを与えてしまう可能性がゆえに価値観のマッチングは慎重であるべきだろう。
選考に際してはも配属先の上司なども同席させ、積極的に関与させることも必要だし、安定するまではフリーランス⇔プロパー間のクッションになるようなリエゾン機能を置くなど、不安定の振れ幅を抑える仕組みが必要と考える。
ただし、リエゾン担当もストレスが溜まりやすいポジションであることは間違いなく、常日頃のケアは必要である。

【対プロパー】
会社にとってコントロールしやすいのは当然プロパーである。
それゆえ、フリーランスと比べて緊急対応などの負担が多くなりがちで不満が溜まりやすいと言える。
ここでは不満解消のため、ある会社で注目されている「スライビング」を紹介している。

 ・スライビング:エネルギーに満ち、自分の能力を活かして、有意義な仕事ができている状態

最近の会社はこのスライビング向上のためにウェルビーイングを意識した施策を取り組んでおり、例えばサバティカルなどの各種休暇制度の拡充などの取り組みが挙げられている。
また、最近の従業員は社会問題・環境問題に対しての企業の言動と自身の関心が合致していることを求めるようにマインドが変化しているとのことだ。
この観点からも論文では、会社は社員のモチベーション・スライビング向上のため、ビジョンなど高次のパーパス経営に力を入れざるを得なくなっていると指摘する。
理念経営はどちらかと言うと外部ステークホルダーに向けられているものとの認識だったが、内部向けにも重要度が増しているというわけだ。
僕自身の結論があるわけではないが、「わが社は社会・環境に対してこれだけ貢献しているんだ」との実感をステークホルダーだけでなく従業員に対しても手厚く提供していかねばならないのだろう。ただし、これは簡単ではない。

この論文ではプロパーに対して金銭的な指摘はあまりなかった印象であるが、昨今の正社員はカネ以上に、簡単に言うと「やりがい」のようなものを求めているということなのだろうか。この点はより精査が必要だろう。

また、リスク回避のプロパーが増えることも課題に挙げている。
要はプロパー社員はフリーランスと異なり会社に安定(福利厚生と雇用の安定)を求めているがゆえに、社内で時にはリスクを取れるような優秀なリーダーが育たない可能性があるということだ。
先進的な会社では企業家的なマインドセットを持つ人材に対してプロフィットシェアリングなどでモチベートするとの施策も紹介されているが、そもそもこの施策を展開する会社の非マネジメント職はフリーランスのみで、プロパーとフリーランスはきれいに区分されている。
それゆえ成り立っているのだろう。
仮に非マネジメント職にフリーランスとプロパーが混在する職場であった場合は、プロパー間にネガティブな状況を作り出す可能性もあると容易に考えられる。

論文ではこのようなマネジメント手法がまとめられているが、どれも簡単ではない。
特にシステム開発や製品企画など、会社のコアコンピテンシーとなる部分に混成チームで対応するとなれば、プロジェクトを推進するにあたっても大変な苦労が想像できる。

そもそもプロジェクトは、プロパーに対し外部社員の割合が高いケースが多い。
業務を上手くルーチン化してルールで縛らなければ早々にスケジュールが遅れ、予測不能な事態が発生し、気付けば炎上PJとなってしまう。
特に規模が大きく重要度が高いプロジェクトだと必然的に外部社員の割合が高くなるため、その傾向はより強いだろう。

ある意味セオリーどおりにPMOに進行管理させるなどが短期的には効果があると考えるが、プロパー育成が長期的な観点から最も効果があると考える。
そのためにも外部から得た専門知識をうまく社内に残す仕組み(ナレッジマネジメント)も精緻に設計する必要があるだろう。
とは言え、最も効果があるのは若手のプロパーを十分に業務関与させて、外部社員からの知識移転を狙うという戦略である。
この点をなおざりにしてしまうと、数年経つと誰も仕様・中身を知らない製品やシステムが出来上がってしまうわけで、自社内への影響は元より社会に対しても多大な影響を与える可能性がある。
また、この状況はコアコンピタンスを他人に握られている状況とも言え、自社で製品・システムをコントロールできず、経営に致命的な影響を与えうる。
この回避のためにも外部社員とプロパーの活用バランスは重要な経営課題だと考えているが、意外と軽視している企業が多く見えるのは気のせいだろうか。

このあたりは最近のシステム開発に関わるニュースを見ても明らかではないかとも感じている。
例えば、日本通運江崎グリコ京都市ユニ・チャーム文化シヤッターなど、大規模システム開発の失敗事例は後を絶たない。
訴訟にまで至ってしまったケースもあるが、外部人材の自組織への融合は十分できていたのだろうか。
もし価値観などを含めた融合が不十分であれば、適切な情報がPMに上がってくることはまずない
細かなミス(齟齬)の積みあがった結果、事故に至ってしまうものだ。
プロジェクトワークの失敗も元を辿ればこういった価値観の齟齬に一端があるのかもしれない。

会社対会社のプロジェクトワークですらこのような状況なのだからフリーランスなどの個人対会社、特に複数の個人対会社となってしまうと増々カオスになってしまうことが容易に想像できる。
そもそもベンダーであれば大体はそのクライアントのことに精通したキーマンが必ず存在しており、そのキーマンが孫請けなどを含めて調整に入ることが多い。
要はキーマンがクライアントの価値観を理解しており、いい感じに価値観のエバンジェリストの役割を担っている
しかし、フリーランスとなるとそういったキーマンが存在しないため、立ち上がりには時間がかかってしまうものと思われるし、プロパー側も少し構えてしまうだろう。

また契約面でも上記のような失敗が必ず発生するため、個人と会社間の契約には細心の注意が必要となる。
フリーランス側の立場を守る仕組みをしっかり構築しなければならないし、フリーランス側も万が一のリスクは重々に理解しておかねばならない。

紹介したように欧米ではオープンタレント戦略などが隆盛になりつつあるなど、時代は大きく変化している。
今後多様性マネジメントの事例は今以上に気をかけておく必要がある。

以上

外部の専門人材を組織に融合させる方法 社内外の混成チームをいかにマネジメントするか | ダイアン・ガーソン,リンダ・グラットン | ["2024年9"]月号|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

科研費一考 ~研究活動スタート支援③~

今回からは研究計画調書の中身に入りたいと思います。


科研費申請時に必要な研究計画書(S-22)は日本学術振興会のHPから入手できます。

研究活動スタート支援 公募情報|科学研究費助成事業(科研費)|日本学術振興会 (jsps.go.jp)
恐らく大体の場合は大学事務から連絡があるものと思いますので、そちらで確認になるのではないかと思います。

 

釈迦に説法なのですが、研究計画調書は必ず自分自身で当年分のものをダウンロードした方が間違いないです。
なぜなら、研究計画調書は毎年変化しないものではなく「変化するもの」だからです。
当たり前のこと過ぎるのですが、意外と盲点です。
「前年分と同じだろ」と高を括ったり、とりあえず前年分を利用して計画調書を書いていたりすると、確認を忘れて痛い目に会う可能性もあります。
・・・今年の基盤Cは危うく盲点を突かれるところでした。。。

 

さて、肝心の中身は以下の内容を「具体的かつ明確に記述」しなければなりません。
ほぼ基盤Cと同じです。
ここからはあくまで私はこうしたということを書いていきますね。

  1. 研究目的、研究方法など:3ページ以内
    1) 本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」
    2) 本研究の目的及び学術的独自性と創造性
    3) 本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ
    4) 本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか
    5) 本研究の目的を達成するための準備状況
  2. 応募者の研究遂行能力及び研究環境:2ページ以内
    1) これまでの研究活動
    2) 研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)
  3. 人権の保護及び法令等の遵守への対応:1ページ以内


では以下に全体的な記載概要を記していきます。

【全体的な文量】
「1. 研究目的、研究方法など」はフルにページを使い切りましたし、文章・構成の見た目を意識する箇所以外に無駄な余白はほぼありません。
人によっては「文章を書きすぎるとよくない」みたいな話も聞いたことがあるのですが、必要なことをきっちり丁寧に書きました。
ちなみに節の文量は以下のイメージです。
そもそも3ページと少ないのですが、やはり「1)の問い」と「4)の計画」は重要度が高いと考え、しっかり書きました。

【文量イメージ】
0) 研究概要:A4フォーマット1ページの1/3程度
1) 本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」:3段落19行
2) 本研究の目的及び学術的独自性と創造性:3段落14行
3) 本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ:2段落15行
4) 本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか:2段落19行
5) 本研究の目的を達成するための準備状況:1段落5行
※参考文献:14行(7編提示)


「2. 応募者の研究遂行能力及び研究環境」はやむを得ない事情から2ページ制限に対して1ページ半の記載となっています。

【文量イメージ】
1) これまでの研究活動:1ページ+1/4ページ程度
2) 研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む):1/4ページ程度


「3. 人権の保護及び法令等の遵守への対応」は私の研究自体が個人情報を扱うものではないため、ほとんど書いてません(7行程度)。
ただ一応リサーチ会社を使ったWebアンケート調査は実施する予定であるので、万が一の場合は大学の研究倫理機関には付議する旨を記載しました。

【文字ポイント】
またこちらも意外と盲点かもしれませんが、文字ポイントは最小11ポイントからとなっていますので気を付けておきましょう。
ちなみに私はこの点に気付かず、10.5ポイントで書いてしまっていました。。
あまり気にしすぎなくてもとも考えられますが、査読者は大量の調書を確認することを考えれば、11ポイントにすべきだと思います(基盤Cではしっかり直した)。
ちなみに私は強調したい文章は青字下線としていました。
これは私も実績ある方からの受け売りではあるのですが、確かに目に優しく調書も読みやすくなっている気がします。

【参考文献の取り扱い】
またこれも人によって対応が違うようですが、参考文献は記載しました。
自論文も当然文中で引用していますが、そちらは基本的に「2. 応募者の研究遂行能力及び研究環境」で記載して、それ以外に上げた先行研究の論文は「1. 研究目的、研究方法など」の文末にそのまま挙げました。
ただし、他の人も言うとおりあまり重要度は高くないと思いますので、あくまで念のためとの建付けで、文字ポイント数も9ポイントにしてます。

 

全体的にはこんな感じですが、民間かつそもそも研究職でなかった身からすると、この文量でも書くのにはそれなりの時間が必要でした。
ロジックが大事だとは思っているのですが、以下のようにどちらかと言うと「とにかくアピール!」に意識が向かってたと思います。

【調書を書くにあたってのマインド】
「この領域の先行研究にはこんなにわかっていない隙間があるんです。
だからこの隙間を埋めることで、この研究でこの領域をこんな風にリードできるんです。
私は今までにこんな有意義な実績を上げたのに加えて、今からこんな面白いことやるんですよ。
しかも実績ある人たちがこの研究に協力してくれるし、研究環境もばっちり問題なし。
まぁ研究課題は一見難しく見えるかもですが現段階でも推進できる目途はついているのです。
しかし、科研費で研究課題を支援してもらえさえすれば、さらに盤石に推進することができるんです、そう思うでしょ?」

全体像としてはこんな具合です。
前回からお伝えしているように私は修士しか持っておらずおまけに今まで研究職にも付いておらず、普通に民間企業で働いてました。
次回以降に記載しますが、他の方と比べて研究実績が圧倒的に足りてないはずなのです。
なので科研費採択となり非常に驚いたところなのですが、次回以降それぞれの章で何をどのように書いたか振り返っていこうと思います。

それでは、今回はこんな感じで。

 

以上